物静かで昆虫が好きな高校生、佐々田絵美がひそかに男の人として生きたいと葛藤する姿を繊細に描く漫画『佐々田は友達』(文芸春秋)。宝島社「このマンガがすごい!2025」オンナ編11位にランクインし、1月に出た完結巻も注目されています。作者のスタニング沢村さんは、男女の枠組みにあてはまらない性自認であるノンバイナリーと公表し、自身の経験を反映しつつ「マイノリティーとして痛みを感じる世の中で、どうやって当事者を肯定するか」を考えて描いたといいます。スタニングさんに思いを聞きました。
――高校生が主人公ですが、ご自身が高校の時に感じたことは作品にあらわれていますか。
高校は社会に出ていくための準備期間で、社会の縮図のような場所でした。楽しい場所でもあったけれど、しんどくもありました。
そもそも学校はさまざまな場面で男と女が分けられ、男女を意識させられ、あきらめることが体になじんでいった感覚があります。
私は生まれた時は女性に割り当てられたものの、男性としてみられた方が自分にはしっくりきていました。人生が壊れてしまうのでは、という危機感があって、はっきりと性別違和を表にすることはありませんでしたが、中学生の頃まではそれほど周囲との違いに悩むことはありませんでした。それが高校に入った途端、進学など将来を突きつけられる機会が増えて、自由ではなく生き方が均質化されていくようで、うちひしがれていきました。
高校時代のしんどかった気持ちを漫画にできないか、と思ったのがこの作品のきっかけです。佐々田は、私のめちゃくちゃ暗かった部分を引き出したキャラクターだと思います。カマキリとか虫が好きなのも、自分が投影されています。
――進路など将来を考えるたびにつらさを抱き、男性として生きたいという思いについて「それを毎秒毎分諦めてる……って 誰かに言えるだろうか」と思い悩む描写は切実です。
性的マイノリティーが描かれる創作、見られなかった
私は3、4歳の頃から漫画家になりたいと思っていました。それは夢でありつつ、現実からの逃げ場所になるからという思いもありました。どこかに属して働いたら男性社員か女性社員にならなければならない、という社会の風潮が耐えられない、と。ストッキングもスカートもはきたくない。じゃあ、男性として就職できるのかというとそうではない。気持ちが混乱してぐちゃぐちゃしていました。
進路を考えてつらくなったの…